レースレポート

ニュルブルクリンクを舞台とした見事なパフォーマンスがチャンピオンシップを締めくくる

グランツーリスモ ワールドシリーズ 2025 ワールドファイナル - 福岡 - ネイションズカップ

日本・福岡(2025年12月21日) - 今シーズンのグランツーリスモ ワールドシリーズを彩る長い戦いが、この週末、博多のウォーターフロントで開催されたワールドファイナルで幕を閉じました。福岡での劇的な一戦では、ワールドシリーズポイントや地区予選などの抽象的な概念は吹き飛び、より本質的な価値が浮き彫りとなりました。残されたのは、究極の戦いそのもの — 緊張下でのスピード、妥協なき行動、そして最も重要な局面で正確に発揮される実力。

福岡国際会議場は、eスポーツ専用施設として一新されました。世界最高峰のグランツーリスモドライバー12名が、これが最後の決戦と覚悟を決め、スタートラインに立ちます。

ポルシェが日本以外のメーカーとして初めてチャンピオンシップを制したマニュファクチャラーズカップの余韻も冷めやらぬ中、注目はネイションズカップへと移ります。このチャンピオンシップは、各国・地域を代表するドライバー対ドライバーの戦いであり、2024年のワールドシリーズポイントランキング上位3名に加え、各地区から最高ランクの予選通過者が参加します。激戦が繰り広げられた3つのラウンドを経て、スペインのホセ・セラーノは合計17ポイントという圧倒的なリードを保って福岡に到着。しかし、より多くのポイントが与えられるワールドファイナルでは、そのリードも脆いものだと過去の歴史が示しています。

ネイションズカップのワールドファイナルは3レースで構成されます。ワールドシリーズポイントが与えられ、次のレースのグリッドが決定する2つのレースと決勝レースです。レース1の結果がレース2のスタート順位を決定し、レース2の結果が決勝大会のグリッドを決定するため、すべてのレースが重要な意味を持ちます。最初の2レース合計でこれまでのラウンドの2倍のポイントが与えられ、さらに決勝レースでも2倍のポイントが与えられるため、依然として誰が優勝するのか、あるいは敗れるのかは予測不能です。

超満員の観客が興奮に沸き立ち、アリーナはレース1の舞台となるベルギーの伝説的なサーキット、スパ・フランコルシャンへと変貌を遂げたかのようです。ドライバーたちは、「ル・マン」から厳選された車両にデジタル世界にしか存在しない2台を加えたプロトタイプマシンに乗り込みます。モータースポーツの歴史と、グランツーリスモが描き出す未来像が融合した、ネイションズカップ レース1の舞台が整いました。

レース1:スパ・フランコルシャン 8周

ピットストップが不要なスプリントフォーマットでは、オープニングラップから全力を尽くすことが求められます。ドライバーたちが 「ル・マン」プロトタイプをフルスロットルで疾走させると、壮観なレースが幕を開けました。クラシカルなグループCマシンが、モダンなLMPマシンと共に咆哮を上げ駆け抜ける。世代の異なるマシンの激突は現実離れしていますが、グランツーリスモのサーキットでは完璧な調和をみせます。

オランダのカイ・デ・ブラン(R8G_Kajracer)が、トヨタ GT-Oneでポールポジションからレースをリード。フロントローにはカナダのサミュエル・カーディナル(PRiMA_Quartz)がザウバー メルセデス C9で並び、チャンピオンシップリーダーであるスペインのホセ・セラーノ(JoseSerrano_16)は、プジョー 908 HDi FAPでそのすぐ後ろに続きます。

最初のコーナーで、レースは劇的な展開を迎えます。日本の宮園 拓真(ZETA_Miyazono)が運転する4ローターのマツダ 787Bがデ・ブランと接触、ポールポジションのドライバーをコース外に追いやります。このインシデントによって、セラーノと日産 R92CPを駆るフランスのキリアン・ドルモン(R8G_Kylian19)が先頭に躍り出ます。宮園は1秒のペナルティを科され、オープニングラップが終了する頃には、セラーノとドルモンはすでに集団から抜け出していました。

先頭の2台が激しいバトルを繰り広げる一方、後方の争いも激化します。宮園、スペインのポル・ウラ(PolUrra)が乗るジャガー XJR-9、チリのアンゲル・イノストローザ(Veloce_Loyrot)のアウディ R18、そして日本の佐々木 拓眞(SZ_TakuAn22)が運転するポルシェ 919 Hybridが、1秒未満の差で激しく3位の座を奪い合います。数周にわたってコーナーごとに順位が入れ替わり、各ドライバーは攻めの姿勢、遅いブレーキング、そして大胆不敵な走りを披露します。

最終周に入ると、ドルモンはセラーノをかわす方法を探りながら最後の攻勢を仕掛けます。しかし「グラナダの稲妻」はそれに屈せず、正確かつ威厳ある防御を貫きます。チェッカーフラッグが振られ、セラーノがトップでゴールラインを通過、ドルモンが2位、そして熾烈なポジション争いを制した宮園が3位を獲得しました。

レース2:ジル・ヴィルヌーヴ・サーキット 17周

舞台をカナダに移したレース2では、先のレースとは全く異なるチャレンジが待ち受けていました。このレースではタイヤ交換が必須で、全ドライバーはダンロップのミディアムコンパウンドとソフトコンパウンドの両方で少なくとも1周走ることが義務付けられています。ドライバーたちが乗り込むのは、グランツーリスモ F3500-B。1990年代のF1マシンにインスパイアされたマシンは、このレースではV10エンジンに換装されており、高回転域まで回すと心地よいサウンドを奏でます。

レースはソフトタイヤでスタートしたスペインのホセ・セラーノが最初のコーナーを制すると、即座にレースの主導権を握りまました。しかし彼の後方で、混戦が勃発。スペインのポル・ウラは4番手からスタートしたもののブレーキングを誤り、フランスのキリアン・ドルモンのリアに衝突、コース外へと押し出します。無論意図的なものではありませんでしたが、結果は深刻でドルモンは9位まで後退。沈着冷静なフランス人ドライバーにとって、悪夢のような幕開けとなりました。ウラは3秒のペナルティを科せられ、レース終盤にこれを消化することになります。

レースが進むと、セラーノは他のドライバーとは次元の違う存在であることを世界にみせつけます。周回を重ねるごとに、2位の宮園 拓真との差は広がっていきます。5周目には約3秒、すべてのドライバーが義務付けられたピットストップを終えた11周目には約4秒にまで拡大。

後方では、ドルモンが決死の追い上げをみせます。11周目には、6位まで順位を挽回。元オリンピックeスポーツチャンピオンにふさわしい執念の走りです。その2周後、今度は元ネイションズカップ王者のヴァレリオ・ガロ(OP_BRacer)が新品ソフトタイヤの強みを活かし、ミディアムタイヤに交換したウラを猛然と追い抜き、3位にポジションアップ。

チェッカーフラッグが振られ、セラーノはその圧倒的な強さを疑いようのないものとしました。彼はこの日2勝目を挙げ、共に表彰台に上がった宮園に5秒以上、ガロには10秒もの差をつけたのです。この結果によって、セラーノは決勝レースに向けて圧倒的なアドバンテージを獲得。6位以内に入ればタイトルを獲得できる計算です。

それは決定的なもののように思えます。しかしバーチャルであろうとなかろうと、モータースポーツは最終周を走り終えるまで何が起こるかわかりません。

決勝レース:ニュルブルクリンク 24h 7周

決勝レースはニュルブルクリンク 24hレイアウトを7周で競われます。このレイアウトは、モダンなグランプリサーキットと170以上のコーナーを有する25キロのコース、伝説の「ノルトシュライフェ」(北コース)を組み合わせたものです。各国の国旗カラーを纏ったレッドブル X2019 Competitionに搭乗したドライバーたちは、制限のないバーチャルレーシングに挑みます。その最高速度は時速300キロを超えるため、迫力満点であると同時に、非常に過酷なレースになることが予想されます。タイヤ交換のため、2回のピットストップが義務付けられ、ソフト、ミディアム、ハードのすべてのコンパウンドを使用しなければなりません。また、燃料補給も必要となるため、レースペースだけでなく戦略も重要な要素となります。

レースはスタート直後から激しい展開となります。最初のコーナーで、宮園 拓真が首位を奪おうとホセ・セラーノに猛攻を仕掛けますが、セラーノは食い下がります。ドライバーたちが北コースに流れ込むと、ペースが落ち着き、ソフトコンパウンドのダンロップタイヤを装着した上位4台が、ミディアムタイヤの中団勢を引き離し始めます。オープニングラップの途中、セラーノは珍しくミスを犯し、マシンが外側に流れて芝生に乗り上げます。ヴァレリオ・ガロは回避行動を余儀なくされ、芝生に突っ込んでスピン。このアクシデントによりレース首位はポル・ウラに移り、ガロは8位に後退します。セラーノは素早く立て直し、2位をキープ。宮園は3位につけます。そしてわずか数コーナー後、セラーノが反撃に出ます。長いバックストレートでウラを猛然と抜き去り、トップを奪還。

首位グループは2周目の終わりにピットイン、戦略の違いが明らかになりました。ウラと宮園がミディアムタイヤを選択した一方で、セラーノはハードで早めにスティントを終えることを選択。セラーノらがピットインしたことで、首位はミディアムタイヤのまま走行していたドライバーが引き継ぎました。キリアン・ドルモンがトップに立ち、佐々木 拓眞、オーストラリアのガイ・バーバラ(OP_Twitchy)が追走。しかしドルモンは次の周回でピットインします。

ハードタイヤを装着しているにもかかわらず、セラーノは猛烈なペースを維持し、ウラと宮園に対して約5秒のリードを守り続けます。彼らの後方では、ガロが巻き返しに向けて再び動き出し、4周目の中盤には4位に浮上。ここでセラーノの燃料状況に注目が集まります。ライバルたちが40リットル以上を積んでいるのに対して、前回のピットストップで給油を見送ったセラーノは、残り14リットルで北コース中程を走行。驚くべきことに、彼は燃料計がゼロを示した状態でピットイン。セラーノは後に、これは計算通りだったと明かしましたが、彼がそこまで攻めた戦略をとるとは誰も予想していませんでした。いずれにせよ、彼は見事に耐え抜き、ほぼ満タンに近い燃料を積んだ状態で、残り3周をミディアムタイヤに切り替えて走行。これにより、セラーノの優勝が事実上確定、後続のドライバーたちは最終スティントで遅いハードタイヤへの交換を余儀なくされます。

最終ピットストップが終わった時点で、宮園とウラが一時的に首位に立ちます。しかしセラーノは、彼らを計画通りに追い詰め、最終周の序盤に首位を奪還。彼の後方では、2位争いが勃発します。前年の王者であり、2度のネイションズカップ優勝者である宮園 拓真は、ポル・ウラと息詰まるハイレベルな一騎打ちを繰り広げ、互いに最高の走りを披露。コーナーごとにスピードと正確さが争われましたが、宮園の経験が最終的に勝り、見事2位を獲得、チャンピオンシップでも準優勝に輝きました。ウラは僅差でそれに続いて3位入賞。総合表彰台に2人目のスペイン人ドライバーが名を連ねました。

しかしこの日のレース、そして今シーズンは、間違いなくセラーノのものでした。彼は前人未到の20ポイント差でネイションズカップのタイトルを獲得。マニュファクチャラーズカップでの勝利も果たす圧倒的な強さでワールドファイナルを制し、2025年のダブルチャンピオンとなりました。制御力と持続力、そして重要な局面で確実に結果を出す不屈の能力によって特徴づけられたシーズンでした。

「グラナダの稲妻」として知られる男は、レース後にこう語りました。「正直、今の気持ちを言葉に表すことができません。今年は本当に最高です。マニュファクチャラーズカップとネイションズカップを制覇できたので、ほぼ完璧な一年でした。このレースの序盤では、多くのミスをしました。昨年は誤った戦略を採ってしまったので、今年は別の戦略を試みたところ、それが功を奏しました」

著者についてサム三谷

サム三谷は、『Road & Track』誌の国際編集長を務め、複数の国際誌でコラムニストとして活躍した後、現在は受賞歴を持つ小説家として活動中。自動車をテーマにしたスパイスリラー三部作『The Prototype』は現在英語版が刊行中で、日本語版は2025年12月の発売を予定しています。

グランツーリスモ ワールドシリーズ 2025 ワールドファイナル - 福岡 - ネイションズカップ リザルト

予選タイムトライアル

車種:
グランツーリスモ F3500-B
コース:
ジル・ヴィルヌーヴ・サーキット
順位 国/ドライバー タイム GAP
1
カイ・デ・ブラン
オランダ
1'15.202
2
サミュエル・カーディナル
カナダ
1'15.255 +0.053
3
ホセ・セラーノ
スペイン
1'15.361 +0.159
4
キリアン・ドルモン
フランス
1'15.370 +0.168
5
ポル・ウラ
スペイン
1'15.394 +0.192
6
宮園 拓真
日本
1'15.423 +0.221
7
トーマス・ラブトレー
フランス
1'15.464 +0.262
8
ヴァレリオ・ガロ
イタリア
1'15.641 +0.439
9
佐々木 拓眞
日本
1'15.767 +0.565
10
ガイ・バーバラ
オーストラリア
1'16.052 +0.850
11
アンゲル・イノストローザ
チリ
1'16.665 +1.463
12
アドリアーノ・カラッツァ
ブラジル
1'17.924 +2.722

レース1

車種:
プロトタイプカー12台から選択
コース:
スパ・フランコルシャン
周回数:
8
順位 国/ドライバー タイム ポイント
1
ホセ・セラーノ
スペイン
16'26.282 12
2
キリアン・ドルモン
フランス
+0.969 10
3
宮園 拓真
日本
+6.973 8
4
ポル・ウラ
スペイン
+7.115 7
5
佐々木 拓眞
日本
+7.751 6
6
アンゲル・イノストローザ
チリ
+8.390 5
7
ヴァレリオ・ガロ
イタリア
+11.506 4
8
カイ・デ・ブラン
オランダ
+14.900 3
9
サミュエル・カーディナル
カナダ
+15.170 2
10
アドリアーノ・カラッツァ
ブラジル
+15.198 1
11
ガイ・バーバラ
オーストラリア
+19.798 0
12
トーマス・ラブトレー
フランス
1Lap 0
ファステストラップ:
佐々木 拓眞 日本 2'02.236

レース2

車種:
グランツーリスモ F3500-B
コース:
ジル・ヴィルヌーヴ・サーキット
周回数:
17
順位 国/ドライバー タイム ポイント
1
ホセ・セラーノ
スペイン
22'10.501 12
2
キリアン・ドルモン
フランス
+5.172 10
3
宮園 拓真
日本
+10.151 8
4
カイ・デ・ブラン
オランダ
+12.475 7
5
ポル・ウラ
スペイン
+16.600 6
6
サミュエル・カーディナル
カナダ
+17.894 5
7
佐々木 拓眞
日本
+20.886 4
8
アドリアーノ・カラッツァ
ブラジル
+24.166 3
9
ガイ・バーバラ
オーストラリア
+26.708 2
10
アンゲル・イノストローザ
チリ
+30.967 1
11
ヴァレリオ・ガロ
イタリア
+36.946 0
12
トーマス・ラブトレー
フランス
DNS 0
ファステストラップ:
ホセ・セラーノ スペイン 1'16.018

決勝レース

車種:
グランツーリスモ レッドブル X2019 Competition
コース:
ニュルブルクリンク 24h
周回数:
7
順位 国/ドライバー タイム ポイント
1
ホセ・セラーノ
スペイン
46'05.433 24
2
宮園 拓真
日本
+5.831 20
3
ポル・ウラ
スペイン
+7.909 16
4
ガイ・バーバラ
オーストラリア
+9.225 14
5
キリアン・ドルモン
フランス
+9.383 12
6
佐々木 拓眞
日本
+9.695 10
7
ヴァレリオ・ガロ
イタリア
+13.862 8
8
アドリアーノ・カラッツァ
ブラジル
+22.266 6
9
カイ・デ・ブラン
オランダ
+24.135 4
10
アンゲル・イノストローザ
チリ
+24.167 2
11
サミュエル・カーディナル
カナダ
+57.389 0
12
トーマス・ラブトレー
フランス
DNS 0
ファステストラップ:
ホセ・セラーノ スペイン 6'20.189

サーキットを照らす光芒のもと、グランツーリスモ マニュファクチャラーズカップは最終戦に 日本・福岡(2025年12月20日) - 福岡に舞台を移し、待望のグランツーリスモ ワールドシリーズ 2025のクライマックス、ワールドファイナルが開催されました。超満員の福岡国際会議場では、世界最高のグランツーリスモのドライバーたちが、究極の対決に臨みます。彼らが掲げる目標はただひとつ ── すべてを懸けて最速の座を...