レースレポート

TOYOTA GAZOO Racing GT Cup 2022はドラマチックな展開に!

TOYOTA GAZOO Racing GT Cup 2022 決勝大会

モナコ・モンテカルロ(2022年11月24日)– クライマックスを迎えた2022年のグランツーリスモ ワールドシリーズ。そのオープニングとして、TOYOTA GAZOO Racing GT Cupが開催されました。決勝会場には、世界最速のGR乗りの称号を手にするために世界中から集まった24名のドライバーが集結。3度のル・マン24時間レース優勝経験者で現TOYOTA GAZOO Racing Europe副会長の中嶋一貴氏が観客席から見守る中、2019年以来3年ぶりとなるオフライン決勝がスタートしました。

この日は準決勝のグリッドを決める予選から始まり、この結果によりドライバーは2グループに分けられます。それぞれの準決勝のトップ4が自動的にグランドファイナルに進出し、5位から10位には敗者復活戦で2度目のチャンスが与えられます。敗者復活戦からも、同じくトップ4がダブルポイントとなるグランドファイナルに進むことができます。レースはドラマチックな展開にあふれており、土日に続くワールドファイナルの展開を期待させるものでした。

準決勝グループA:ハイスピードリンク

準決勝はハイスピードリンクで開催。12名のドライバーは、自分の国のカラーに飾られた「GRスープラ レーシングコンセプト」に乗り込みました。この25ラップのレースではハードとソフトのタイヤ使用義務があり、そのため最低でも1回のピットストップが必要となります。最初のレースでは安定した速さを見せてきたスペインのホセ・セラーノ選手(TDG_JOSETE)がポールポジション。2018年ネイションズカップチャンピオン、ブラジルのイゴール・フラガ 選手(IOF_RACING17)が2番手に並びます。2列目はUKの新人ウィル・マードック選手(WiIIMurdoch)と、2020年ネイションズカップチャンピオンの宮園拓真選手(Kerokkuma_ej20)です。

ほとんどのドライバーがハードタイヤを選択してレースを始める中、フラガと宮園はソフトを選択。あきらかに始めから後続を引き離し、挽回できないほどのギャップを広げる戦略です。ライトがグリーンになった瞬間、フラガがタイヤのアドバンテージを活かして前に飛び出します。宮園とマードックも動き、第2コーナー手前でセラーノはすでに4位まで下がることを余儀なくされました。1ラップ目の終わりにはフラガと宮園が1-2、お互いのスリップを使いながら後続を引き離しにかかります。

そのためレース序盤の戦いは主に中段のグループで繰り広げられました。マードック、セラーノ、イタリアのジョルジョ・マンガーノ選手(Williams_Gio)と、期待のルーキー、フランスのキリアン・ドルモン選手(PRiMA_Kylian19)が、3位をめぐり激しい攻防を繰り広げます。この4台はお互いのスリップを最大限に活かしながら幾度となく入れ替わりますが、彼らのバトルが続けば続くほどフラガと宮園とのギャップは増え、7ラップ目には5秒にまでふくれ上がりました。

11ラップ目、今レース初となるピットストップでドルモンがハードからソフトタイヤに履き替えます。次の2ラップで、セラーノとマンガーノを含む多くの車がピットに入り、グリップ力の高いタイヤに履き替えた10台は先頭を追う準備が整います。フラガは13ラップ目の終わりにピットインしますが、宮園はもう1ラップ我慢して、ソフトタイヤから最後のグリップを絞り出そうとします。

全車がピットストップを終えた16ラップ時点での順位は、トップが宮園、それにフラガが続きます。フラガはマンガーノと川上奏選手(SG_Kawakana)、セラーノのグループを6秒リードします。果たして残り9ラップの間トップを守るのにこのギャップは十分か?

その答えは20ラップ目にフラガと宮園のリードが1.5秒以下に削られた時、あきらかになります。次のラップ、セラーノが宮園をフロントストレートでオーバーテイク。ターン2ではマンガーノがフラガを追い越し、宮園はセラーノを抜いて2位に返り咲きます。

ここで、想像もしていなかったアクシデントが起こります。ターン2後の短いストレートで、セラーノが外からオーバーテイクを仕掛け、宮園と接触。宮園はスピンし、勝利の射程外に落ちてしまいます。そして原因となったセラーノも、3秒という厳しいペナルティを最終ラップに受け、勝利を逃す事に!

これにより、ジョルジョ・マンガーノ選手がトップチェッカーを受け、イゴール・フラガ選手は 2位をキープ、3位の川上奏選手、4位のウィル・マードック選手までがグランドファイナルに進出しました。

Rank Driver Time
1 ジョルジョ・マンガーノ Williams_Gio 28:32.030
2 イゴール・フラガ IOF_RACING17 +02.634
3 川上 奏 SG_Kawakana +05.026
4 ウィル・マードック WillMurdoch +05.041
5 ホセ・セラーノ TDG_JOSETE +05.651
6 宮園 拓真 Kerokkuma_ej20 +07.312
7 トーマス・ラブトレー Aphel-ion +11.218
8 キリアン・ドルモン PRiMA_Kylian19 +12.612
9 ナサヨウ・シリガヤ PSC_themiang_FSR +12.989
10 佐々木 拓眞 LG-TakuAn_ +19.100
11 サイラス・クロス STR_Cyrus +30.069
12 クィンテン・ジュール R4M_Quinten +30.299

準決勝グループB:ハイスピードリンク

準決勝グループBには、2021年ネイションズカップチャンピオンであるイタリアのヴァレリオ・ガロ選手(Williams_BRacer)や、ポールポジションを取ったブラジルのルーカス・ボネリ選手(TGT_BONELLI)らを含むベテラン勢が集まりました。2位のポジションにはおなじみの顔であるフランスのバティスト・ボボア選手(R8G_TSUTSU)、アメリカのロベルト・ハック選手(Robby--Heck)とブラジルのアドリアーノ・カラッツァ選手(Didico__15)が2列目。11位スタートの小林利徠斗選手(TX3_tokari71)だけが唯一、ソフトタイヤでスタート。グリッドのほぼ全車がハードタイヤでスタートを切り、いきなりトップを巡るバトルが始まります。

第1コーナーを抜けた時点で、すでに順位が完全に入れ替わり、TGR GT Cup初参加であるインドネシアのアンディカ・ラマ・マウラナ選手(LOR_RamStig)がリード、ボボア、ボネリ、ハックが続きます。驚くべき事にガロが最下位に落ちてしまいましたが、レースはまだまだ始まったばかり。いっぽうで2ラップ目には小林が4位まで浮上しています。

3ラップ目、5台が並んでターン2に突入。ハック、カラッツァ、ボネリが衝突し、何台かが巻き込まれます。カラッツァは最下位に落ち、ボネリは8位に。ハックは無傷で生き残ります。

これにより、マウラナはリードを奪い、ガロはこの混乱に乗じて2位に滑り込みます。次のラップでは、再び順位が入れ替わり、アメリカのディーン・ヘルト選手(PRiMA_Deano)がリードを奪い、その後ろに小林、ボボア、マウラナが続く形に。5ラップ目に小林はようやくリードを奪いますが、前回レースと同様、タイヤ交換後に他の選手を寄せ付けないほどのリードは持てなかったようです。

9ラップ目に入り、6位のガロが最初にピットインし、ハードタイヤをソフトに交換しました。ヘルトとボボアは次のラップでピットイン。13ラップまでに全選手がピットインを行い、順位は小林、ボボア、マウラナ、ガロ、ヘルトとなりますが、今度は小林だけがハードタイヤを履いた苦しい戦いとなります。

ボボアは16ラップ目に小林を抜いてリードを奪い、マウラナは18ラップ目に小林を抜きます。その2ラップ後、ヘルトも小林を抜き3位を獲得し、逆に小林は残り5ラップでワールドファイナルへのチケットを与えてくれる4位を死守する必要が出てきました。ガロはその後ろから猛追し、22ラップ目には小林を追い抜きましたが、彼のソフトタイヤは完全に摩耗しており、車両が非常に不安定になりました。そして残り2ラップで予期せぬ事態が再び起こります。ヘルトが起こした大クラッシュにガロと小林が巻き込まれ、それぞれ7位と8位に沈みます。順位は再び入れ替わり、バティスト・ボボア選手が首位でフィニッシュ。続いて、アンディカ・ラマ・マウラナ選手は2位、ルーカス・ボネリ選手は3位、ロベルト・ハック選手は4位で決勝進出を決めました。

Rank Driver Time
1 バティスト・ボボア R8G_TSUTSU 28:35.138
2 アンディカ・ラマ・マウラナ LOR_RamStig +00.732
3 ルーカス・ボネリ TGT_BONELLI +05.610
4 ロベルト・ハック Robby--Heck +07.116
5 ディーン・ヘルト PRiMA_Deano +07.144
6 ヴァレリオ・ガロ Williams_BRacer +16.107
7 マルコ・ブスネリ TDG_MARKUS +16.165
8 ガイ・バーバラ Dstinct_Twitchy +16.240
9 マシュー・マキューエン AE_McEwen +16.285
10 小林 利徠斗 TX3_tokari71 +19.834
11 ハーリド・アル・マラーギ Khalid_Almaraghi +23.406
12 アドリアーノ・カラッツァ Didico__15 +33.884

敗者復活戦:東京エクスプレスウェイ・南ルート 内回り

各準決勝の5位~10位が進出した敗者復活戦には、ポールシッターのホセ・セラーノ選手をはじめとして宮園拓真選手、ヴァレリオ・ガロ選手などベテランドライバーが多数参加。この12ラップのスプリントレースで、上位4名がグランドファイルへ進出することができます。レースの舞台は東京エクスプレスウェイ、使用するクルマは「ダラーラ SF19 Super Formula / Toyota」。フォーミュラカーが東京のビルの谷間を時速320kmで走行する光景は現実を超えています。ドラマはシグナルが青になる前から始まり、スタート時点でヘルトがフライング、ガロは機材トラブルのため、グリッドで立ち往生し、レースが始まる前にリタイアとなりました。宮園とフランスのトーマス・ラブトレー選手(Aphel-ion)は、この混乱に乗じて前方に躍り出ました。

レース前半に、トップが何度か入れ変わり、グランドファイナルへのチケットを巡るトップ4争いが続きます。レース中盤には小林がトップに立ち、ドルモン、佐々木拓眞選手(LG-TakuAn_)、イタリアのマルコ・ブスネリ選手(TDG_MARKUS)が続きました。しかし、ストレートで各選手がお互いをバンプドラフトし、1位から7位までは1秒ほどしか差がなく、順位が何度も入れ替わりました。

7ラップ目の終わりに、ラブトレーが佐々木の後ろからぶつかり、佐々木はセラーノと小林に衝突、連鎖反応が始まります。それによりセラーノが9位に沈み、グランドファイナル進出の争いから外れました。佐々木は4位に立ち、なんとかトラブルを回避した小林は6位をキープしました。いっぽう、ドルモンは1位を奪い、ヘルトとブスネリがそれに続きました。

最終的にキリアン・ドルモン選手はヘルトの猛烈なアタックを退けて、トップでチェッカーを受けました。続いてディーン・ヘルト選手、佐々木拓真選手、マルコ・ブスネリ選手もともにグランドファイナルへ進出です。

Rank Driver Time
1 キリアン・ドルモン PRiMA_Kylian19 18:43.872
2 佐々木 拓眞 LG-TakuAn_ +00.546
3 マルコ・ブスネリ TDG_MARKUS +00.596
4 ディーン・ヘルト PRiMA_Deano +01.083
5 小林 利徠斗 TX3_tokari71 +02.297
6 宮園 拓真 Kerokkuma_ej20 +02.854
7 ホセ・セラーノ TDG_JOSETE +03.501
8 ガイ・バーバラ Dstinct_Twitchy +04.890
9 マシュー・マキューエン AE_McEwen +07.139
10 ナサヨウ・シリガヤ PSC_themiang_FSR +09.805
11 トーマス・ラブトレー Aphel-ionj + 3Lap
12 ヴァレリオ・ガロ Williams_BRacer + 11Lap

グランドファイナル:富士スピードウェイ

準決勝での好成績のおかげで、ジョルジョ・マンガーノ選手はグランドファイナルをポールポジションでスタート。もういっぽうの準決勝の勝者、バティスト・ボボア選手が2番手につきます。2列目には、イゴール・フラガ選手とアンディカ・ラマ・マウラナ選手。舞台は歴史の長い富士スピードウェイです。「TOYOTA GR010 HYBRID 2021」による30ラップのレースで、全3種類のタイヤの使用義務があります。このグランドファイナルは付与されるポイントが2倍のため、ここで勝負が決まります。

ほとんどのドライバーが、ミディアムタイヤでスタートを切る中、フラガとヘルトはソフトタイヤをチョイス。このタイヤ戦略はフラガの常套手段ですが、準決勝では結果を出せませんでした。今度こそ結果を出すべく、同じ先行逃げきりの戦略で臨みます。

トップグループはターン1を難なく通過しますが、後続のグループではドラマチックな展開が繰り広げられます。川上がコースアウト、ヘルトは混乱に乗じて、一瞬で12位から4位に浮上します。マウラナとガロはマシントラブルでスタートを切る事ができず、この日のレースを終えました。ここまでのレースで、かなりのスピードと勢いを見せたマウラナにとっては残念な結果となってしまいました。

コース上では、フラガがマンガーノを1ラップ目の最終コーナーでオーバーテイクして、レースをリード。タイヤのアドバンテージを活かし、後続の車から引き離そうとします。今回こそ戦略を活かせるのか? 答えは割と早い段階からあきらかになります。2ラップ目にヘルトが2位に浮上、フラガは予想よりかなり良い結果を出すことができました。

壮観な富士山を背景に、GR010はストレートで330kmのトップスピードに到達します。5ラップ目までにはフラガが大幅に後続を引き離し、ヘルト、マンガーノ、ボボア、ボネリが激しい2位争いを展開。彼らのバトルのおかげで、フラガはギャップを広げ、8ラップ目には後続を12秒も引き離します。フラガは9ラップ目の終わりにピットストップを行い、ミディアムタイヤに変更。まだピットストップを行っていないボボアとマンガーノの後ろ、3位でコースに復帰します。

12ラップ目にトップの2台がピットストップを行った時、フラガはレースを完全に掌握します。後続を19秒もリードし、彼のペースはミディアムタイヤでもまったく落ちません。いっぽうで、一時期コースから押し出されてしまったボネリはなんと2位まで順位を戻し、ボボアとマンガーノの前に出ます。またドルモンと佐々木はそれぞれ4位と5位につきます。

レース中盤以降はフラガの独壇場。彼は他の車を20秒もリードし、大きなミスを犯さない限り表彰台を確実としました。残る2位、3位をボネリ、ドルモン、ボボア、佐々木、マードックが争います。

23ラップ目にすべてのドライバーが2回目のピットストップを終えた時点で14.7秒のリードを持っていたイゴール・フラガ選手が1位。彼はハードタイヤを履いているにも関わらず、誰も追いつくことができず、1人でチェッカーを受けます。2022年のルーキー、キリアン・ドルモン選手は2位を勝ち取り、ワールドシリーズ Showdownでみせた速さが本物であると証明しました。そして同じく今大会初参加の佐々木拓眞選手がレースの終盤の猛攻で表彰台に滑り込みました。彼らルーキーも活躍したレースでしたが、グランドファイナルはフラガが王者の走りで魅せました。

レース後のイゴール・フラガ選手:「早めにグループを抜けて距離を置きたかったので、ソフトタイヤでスタートしました。そして僕の後ろにいた車が最初激しくバトルしていたので、かなり大きなギャップを稼ぐことができました。すべて最後までうまく行ってうれしかったです」。

TOYOTA GAZOO Racing GT Cup 2022 決勝大会
リザルト

Rank Driver Time
1 イゴール・フラガ IOF_RACING17 44:28.252
2 キリアン・ドルモン PRiMA_Kylian19 +16.249
3 佐々木 拓眞 LG-TakuAn_ +19.742
4 バティスト・ボボア R8G_TSUTSU +20.968
5 ウィル・マードック WiIIMurdoch +21.503
6 マルコ・ブスネリ TDG_MARKUS +21.856
7 ジョルジョ・マンガーノ Williams_Gio +24.904
8 川上 奏 SG_Kawakana +29.024
9 ルーカス・ボネリ TGT_BONELLI +37.024
10 ロベルト・ハック Robby--Heck +40.220
11 ディーン・ヘルト PRiMA_Deano +45.914
12 アンディカ・ラマ・マウラナ LOR_RamStig DNF