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特集

ニュル24時間レース2010 レースレポート(3/3)

ナイトセッションでの明暗

ニュルブルクリンク・北コースの夜。ギャラリーのテントはネオンや照明で美しく飾られ、観客たちは思い思いに一晩を楽しみ明かす。

午前2時。アデナウの町へと下る北コース9km地点を行くレクサスIS F。ドライバーはピーター・ライオンさん。

5月16日朝5時半、IS Fがルーティンのピットイン。疲労も乗り越えてマシンに飛びつくメカニックたち。彼らはこのレースにいたるまでの2週間、ほとんど睡眠もとらずにマシン作りに打ち込んできた。

ニュータイヤを装着してピットアウトするIS F。フロントには暗黒の北コースで使用するドライビングランプが見える。

シートから降りたばかりの山内から報告を受けるチーム監督の三橋潤一さん。「レースは人を育てる」という理念のもとに今回のチームをまとめ上げてきた。

夜明けとともにバトルに決着を付けトップに立った911GT3 Rハイブリッド。4リッター水平対向6気筒エンジンの480psを後輪に伝達。さらにブレーキ回生でフライホイールジェネレーターにエネルギーを貯め、その力で前輪モーター(1輪あたり81.5ps)を6-8秒間駆動できる4WDマシン

王者マンタイが去ると、近年見られなかった熾烈なトップ争いが始まりました。夜明けまで死闘を繰り広げたのは、ゼッケン99のアウディR8 とゼッケン9の911ハイブリッド。両車はともに8分50秒台のハイペースで飛ばしますが、午前5時過ぎ、R8のリアアクスルにトラブルが発生し、バトルに終止符が打たれます。

日本勢はスタート以来、大きなトラブルもなく順調に走行を続けてきましたが、夜11時過ぎ、ドイツ人ドライバーの駆るLFA(ゼッケン51)のパワートレインに異常が発生、マシンはパドックへと運び出されてしまいます。よもやリタイアかと思われましたが、チームはテントで懸命の修理を開始しました。午前0時の時点で日本勢はファルケンZが総合21位(クラス5位)、ゼッケン50のLFAが総合42位(クラス2位)、インプレッサが総合37位(クラス5位)という状況です。

視界が心配されていた「ワールド・カー・アワード」チームのナイトセッション。チームはヘッドライトの配光を補うために大型のドライビングランプを追加し、ドライバーの不安を劇的に軽減しました。マシンは深夜1時半にマフラーのマウントゴムを交換した以外はコンディションをキープ。コース上に車両が分散した効果もあり、IS Fは昼間より速いラップタイムで順位を上げていきます。

もっとも気温が下がる夜明けには、3度目のスティントとなった山内がハードアタック、ファステストラップを9分48秒943まで短縮しました。この結果総合順位は62位、クラス順位も5位に上がり、はるか先にいた4位のアウディR8(ゼッケン49)を射程に収めたのです。

決勝出走198台。リタイア75台。

ニュルブルクリンクの夜明け。それは暗黒の山岳コースを戦い抜いたマシンだけが見られる祝福の光です。そんな朝日を浴びてトップを快走し続けるのは911ハイブリッド。これにゼッケン99から勝負を託されたゼッケン2のアウディR8 LMSが追いすがります。

ゴールまであと7時間となった午前8時。「ワールド・カー・アワード」チームにニュースが飛び込みます。追い上げていた同じSP8クラスのアウディR8がクラッシュ、フロントを大破したのです。IS Fは争わずしてクラス4位へとポジションアップ。ピットはまさかの事態に沸きかえります。

午前9時、オーウェン選手が無線でクルマの異常なバイブレーションを伝えてきました。原因はフロントスポイラーの破損。チームはタイラップなどでスポイラーを補強し、再びマシンを送り出します。次のピーター選手の交代時に結局スポイラーを交換しますが、マシン自体は順調そのもの。「マシンは快調です!」という無線がドライバーから届くたびに、チームはゴールが着実に近づいていることを実感します。

一方、総合優勝争いのドラマはまだ終わってはいませんでした。午前10時半、911ハイブリッドを追いかけていたゼッケン2のアウディR8 LMSがマンタイ・ポルシェと同じ場所でリタイア。いよいよ911ハイブリッドが勝利に王手をかけたかに見えました。ところがゴールまであと2時間という午後1時。その911ハイブリッドがエンジントラブルからまさかのスローダウン。コースを大観衆のため息が地鳴りのように響き渡ります。ポルシェが誇る最新モンスターのデビューウインは消え去りました。22時間を経てトップに立ったのは、スタート以来ひたすらチャンスをうかがってきたBMW M3 GT2(ゼッケン25)です。

5月16日午後3時。長かった24時間が終わりました。全周25kmの観客が総立ちとなり、24時間を戦い抜いたマシンを称えます。総合優勝は残り2時間を堅実に走りきったBMW M3 GT2(ゼッケン25)。ALMSで鍛えぬいた耐久のノウハウを活かしきりました。日本勢ではファルケン・モータースポーツのフェアレディZが総合12位(SP7クラス3位)、レクサスLFA(ゼッケン50)が18位(SP8クラス優勝)、STIのスバル・インプレッサが24位(SP3Tクラス4位)とかつてない健闘を見せました。

「ワールド・カー・アワード」チームも全員がピットレーンの金網によじ登り、オーウェン選手の駆るマシンを喝采で出迎えます。決勝出走数198台、リタイア75台。そんな過酷なレースで、レクサスIS Fは総合59位、クラス4位という成績を収めたのです。

「レースを通じて、バーチャルな世界での経験がどれほど実効性を持つか確かめたい」。昨年山内は参戦理由をこう語りました。初参戦で入賞という快挙をもたらした現実のニュル24時間レースは、きっとそれ以上の収穫を山内にもたらしたに違いありません。

キャンプ地のあちこちには観客が飲み干したビール瓶のオブジェが出来上がる。ニュルの別名でもある「グリュン・ホール(緑の地獄)2010」と読める

クラッシュしフロントを失ったアウディR8(ゼッケン49)。このマシンがスローダウンしたことで、同じSP8クラスを戦うIS Fはクラス4位へとポジションアップを果たした

16日午後1時、山内が緊急ピットイン。フロントバンパー交換によって空力特性が変わったため、オイルクーラーの冷却を確認するが異常は見つからず、すぐさまコースへ復帰。ゴールまであと2時間。

午後3時、24時間レースのゴール。山内を始めあらゆるチームの関係者が金網によじ登りマシンを出迎える。熱狂的な歓声が25kmのコースを包み込む感動的な瞬間だ。

混乱を制してBMWに5年ぶりの総合優勝をもたらしたM3 GT2(ゼッケン25)。24時間で154ラップ、3908kmあまりを走破した。これはアメリカ大陸ワシントンDC-ラスベガス間横断に匹敵する距離だ

攻め続ける走りで見事2位の座を射止めたフェラーリF430(SP7クラス/ゼッケン43)。車高の関係からカルッセルではすり鉢部分を走らず外周部分を走行ラインとした

相次ぐR8勢の脱落からも生き残り、3位に入賞したフェニックス・レーシングのR8 LMS(SP9Gクラス/ゼッケン97)

24時間を通じて安定した走行を見せ、見事総合12位、SP7クラス3位の座を射止めたファルケン・モータースポーツのフェアレディZ

木下隆之、飯田章、脇阪寿一、大嶋和也という4人の日本人ドライバーによって見事SP8クラス2連勝を達成したLFA(ゼッケン50/総合18位)。ゼッケン51のマシンは11時間の大修理を経てコースに復帰したが完走扱いとならなかった

スバル・インプレッサは市販車の性能追及という目標を掲げて総合24位、SP3Tクラス4位に入賞。昨年の総合33位、クラス5位という成績を上回った

戦うVW、シロッコは今年AT(代替パワートレイン)というクラスに出場して1-3位を独占、3年連続のクラス優勝を果たした(ゼッケン117/総合16位)。天然ガスを使用するエンジンは今年330psまでパワーアップ。9分4秒710というFF車の最速ラップタイムも記録している

最新モデルRCZのディーゼル仕様を持ち込み、見事D1Tクラスで優勝を果たしたプジョー(ゼッケン201。ゼッケン200もクラス3位)。そのゼッケンはプジョー創業200周年にちなんだものだ

「グランツーリスモ」ファンにはおなじみ、「GTアカデミー」で欧州GT4選手権を戦うRJNモータースポーツも370Zで完走を果たした(ゼッケン64/SP7クラス10位)。ドライバーとしてアレックス・バンコム選手が参加した

WRCドライバー、フィンランドのヤリ・マティ・ラトバラ選手がドライブして話題を集めたフォード・フォーカスRS(ゼッケン250/SP4Tクラス)。マシントラブルに泣かされ総合110位、クラス6位と不運な結果に終わった

去り行くものその1。30年に渡ってこの24時間レースに参戦し続けてきた名物マシン、オペル・マンタ。オーガナイザーの計らいでエントリーを続けてきたが今年のレースを持って引退が決まった

去り行くものその2。ゼッケン127のフォーカスをドライブしたウベ・ライヒ選手は今年で38回を迎えた24時間レースに全戦参戦してきたただ1人の人物。彼も今年のレースを最後に引退を決めた

ゴールの瞬間、ピットレーンとホームストレートを隔てる金網の上で歓喜に沸く山内とチームスタッフたち。

感動のゴールから数時間。静けさを取り戻したホームストレートでマシンとチームスタッフ全員が記念撮影