2008年08月01日
ポリシーは“Nothing But The Best”
——ちょうど今年の春の時点で『グランツーリスモ』(以下GT)シリーズの全世界累計生産出荷本数が5,000万本を突破しました。現在も着々とその数字を伸ばしていますが、まずは率直な感想を。
本当にリアリティがないですよね。僕が最初につくったゲームは『モータートゥーン・グランプリ』(※1)なんですけど、あの当時から、“20万本売れたら幸せだなぁ”って思っていたんですよ。ゲームのつくり手としてね。それが5,000万本でしょう?
(単位万本)
| タイトル名 | 日本 | 米国 | 欧州 | アジア | 世界合計 |
| 「プレイステーション」専用ソフトウェア | |||||
| グランツーリスモ | 255 | 399 | 430 | 1 | 1,085 |
| グランツーリスモ 2 | 171 | 396 | 368 | 2 | 937 |
| 「プレイステーション 2」専用ソフトウェア | |||||
| グランツーリスモ 3 A-spec | 189 | 714 | 585 | 1 | 1,489 |
| グランツーリスモ コンセプト 2001 TOKYO ※A | 43 | --- | 100 | 13 | 156 |
| グランツーリスモ 4 プロローグ | 79 | --- | 41 | 16 | 136 |
| グランツーリスモ 4 | 124 | 290 | 577 | 15 | 1,006 |
| 「プレイステーション 3」専用ソフトウェア | |||||
| グランツーリスモ5プロローグ※B | 27 | 55 | 138 | 3 | 223 |
シリーズ合計:5,032万本(2008年4月末現在) (※A)関連作品含む (※B)ダウンロード版含む
——数字が巨大すぎて実感がわかない?
うん。プレスリリースにもコメント出しましたけど、1本のソフトを購入するのに少なくとも3分くらいはかかるわけですよ。商品を手にとってレジに並んで会計をする——それが世界中で5,000万回繰り返されているわけで……もう想像がつかない(笑)。
——シリーズを通しての数字も驚きですが、そもそも初代『GT』から255万本(日本)という数字も驚異的ですよね。
たしか'97年前後のほかのタイトルって、だいたい2万〜3万本が初期出荷本数の平均だったんですけど、『GT』はいきなり35万本ですよ。驚きましたね。だけど、嬉しい反面、内心はドキドキで。当時のレースゲームの様式とは明らかに異なっていたし、売れ残ったらどうしよう、とか、35万本はつくりすぎなんじゃないか、とか、ずっとそういう心配をしていましたね。
——『GT』の発売は'97年12月23日。クリスマス直前ですね。
発売日当時のことは今でも鮮明に覚えていて、とにかく一瞬にして店頭から在庫がなくなったんですよ。
——完売ということですか?
そう。で、その翌日にきた追加発注が23万枚。それって、この長いプレイステーションの歴史のなかでも大記録なんです。とにかく反響が予想以上で、たしか1月いっぱいくらいまでは品薄の状態が続いた記憶がありますね。
——発売日当日に行列はありましたか?
“行列”って感じじゃないですね。2作目以降なら行列ってできるんだけど、1作目って、心で買うとは思っていても、みんなも買うとは思っていないから。だから当時は行列はなかったんですけど、あっという間に商品がなくなってた。
——『GT1』からすでにその傾向がありますが、日本よりもアメリカ、そしてヨーロッパのほうがユーザー数が多いですよね。アメリカよりも日本が少ないとは少し意外でした。
これは単純にクルマへの愛情の深さとか広がりとか、そのへんの違いでしょうね。
——シリーズごとの出荷本数の推移をご覧になって、何か感じるものはありますか?
今まで『GT』シリーズは新しいハードのベンチマーク的な側面もあったので、やはりそのハードで最初の『GT』は強いですよね。だから、「プレイステーション」で最初の『GT1』、「プレイステーション 2」(以下PS2)」で最初の『グランツーリスモ 3』(以下GT3)が頭ひとつ抜けているのは順当な結果だと思います。ただね、僕が今いちばん気になっているのはユーザーの年齢層が上がっていることなんですよ。
——若者のクルマ離れということですか?
そう。17歳以上はまだいいとしても、17歳以下という年齢層の人って、ほとんど『GT』シリーズを買っていないんです。『グランツーリスモ5プロローグ』(以下GT5P)のデータを見るとね。しかも、若者の興味の対象がクルマではなくなってきているという話になると、日本だけじゃなくて世界的に起こっていることなので、これはちょっと心配ですね。
——とはいえ、この5,000万本という大記録は、言い換えると、それだけのユーザーが『GT』を受け入れてくれた結果とも言えますよね。これほど支持されている理由はどこにあると思いますか?
『GT』のユーザー層って、大きくふたつにわけられると思うんです。ひとつはクルマ好き。そういう人たちは、自分が好きなクルマが入っているから『GT』を買ってくれている。カプチーノが好き、ロードスターが好き、GT-Rが好き、個々のモデルにたくさんのファンがいますから。そういう意味では、クルマそのものが持つエネルギーに助けられているとも言えますよね。
もうひとつはゲームファン。先ほども言いましたけど、『GT』って、その時代のハードのベンチマーク的な顔を持っていますから、『GT』を買って“今のゲーム機はここまできたんだ”ということを実感してもらって、それが話題になり、広がっていく。5,000万本という数字は、そんな良い意味での循環があったからこそ達成できたんだと思います。
——この10年間で名実ともに『GT』は一大ブランドに成長を遂げたわけですが、ブランドとして大きくなるにつれて、つくり手としてのプレッシャーはやはり感じますか?
プレッシャーは常に感じていますよ。『グランツーリスモ 2』(以下GT2)のときからずっと。『GT1』のときって、開発に好きなだけ時間をかけられたし、好きなだけ煮詰めることができた。だからある意味、気楽な状態でつくり続けることができたわけですよ。ところが『GT2』以降は、良いものをつくることは大前提として、SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)という会社やハードへの貢献も考えなくちゃいけないですから。
——一方で、ブランドとして巨大になったがゆえのジレンマなどは?
それはないですね。ただ、単純にゲームの規模が巨大化しているおかげで、どんどん開発が困難になってきているのは事実ですよね。例えば「プレイステーション」のときは、小さなチームでも隅から隅まで120%つくり込めていたものが、「プレイステーション 3」(以下PS3)くらいになってくると、やはり開発チームの規模を大きくしないと回していけない。ゲーム自体も複雑になっているしね。だから、ジレンマというよりも“苛立ち”と言ったほうがいいかな。……うん、ものすごく苛立ちは感じてますね。
——とはいえ、ハードの進化を考えると、この先もきっとその苛立ちは解消されそうにない……?
そう。だから、そこをどう埋めていくか、なんですよね。これはゲームに限らないと思うんですけど、つくり手としては、やはり完全なものを出したいし、出さなきゃいけないんですよ。メルセデスを象徴する言葉に“Nothing But The Best(最善か無か)”という言葉があります。最善のもの、完璧じゃないものなら、なにもしないほうがいいって意味なんですけど、僕のモノづくりに対するスタンスはまさにそれなんです。そのポリシーは今までもそうだし、これからも貫いていきたい。だけど、今のゲーム業界はなかなかそれを許してくれないところもあって。そういう意味では苦しんでますね。すごく。
『GT』シリーズで好きなのは『1』と『3』
——この10年間でリリースされた『GT』は『GT1』から『GT5P』まで全7作ですが、思い入れのあるタイトル、特別気に入っているタイトルはありますか?
個人的に好きなのは『1』と『3』。逆にいちばん苦労したのは『2』(笑)。
——その理由は?
なんていうか、『1』と『3』はうまくやりきれた感じがするんですよね。『2』が苦労したっていうのは、無謀に企画を盛り込みすぎてしまって、時間もメモリも足りなくなった(笑)。
——とくに『1』は自動車業界とのファーストコンタクトという意味でも特別な存在でしょうね。
そうですね。僕が自動車メーカーに最初に企画を持っていったのは'92年くらいで。そのときは「プレイステーション」というハードはもちろん、SCEという会社もまだ設立前だったので、SCEの会社説明書類とプレイステーションのハードの企画書、それに加えて『GT』の企画書を自分でつくって自動車メーカーにプレゼンに行きましたから。
——そのときの反応は?
当時のゲーム業界を考えれば当たり前のことなんですけど、“リアルドライビングシミュレーター? なにそれ?”という反応しかなかったですね(笑)。だけど最初にトヨタさんがOKしてくれてからは、順調とは言えないまでも、なんとかなった。
——ゲームの中身に目を向けると『GT1』は環境マッピング(※2)のインパクトが強烈でした。
そうそう、環境マッピングと、あとリプレイね。それまでのレースゲームにもリプレイはありましたけど、ドライビングとリプレイの比重を50対50で構成したのは『GT』が最初ですから。
——リプレイを重要視したのはどういうところから?
僕自身が昔、映画少年で、ずっと映画を撮りたかったというところが基盤になっていますね。外カメできれいにクルマを映す、というね。しかもたくさんのクルマを収録しているから、リプレイは必須だったんですよ。
——60FPS(※3)で動くオマケモード「GT HiFi」(※4)も当時からチャレンジングでしたよね。ハードの限界に挑戦するあたりが、いかにも『GT』らしい。
そもそも当時からレースゲームは60FPSじゃないダメだと思っていましたからね。だから本編の30FPSというのは、じつは不本意ながらそうなってしまったという経緯があって、条件を特定すれば60FPSで動くのはわかっていたので、最後にオマケで入れたんです。
——で、その60FPSが最初に実現したのが『3』というわけですね。
そう。『GT』シリーズでいちばん大切にしているのはドライビングフィール、つまり運転して気持ちいいことですから、やはり60FPSは絶対条件なんですよね。それが『GT3』でようやく実現できて、かつハードの表現力が上がったことでリアルで美しい景観のなかでレースができるという、ある種、今の『GT』に共通する様式が固まってきた。
——その『3』の時代を振り返って、何か印象に残っている出来事はありますか?
「PS2」の立ち上げに向けて『GT』のデモを絶え間なくつくっていたので、「PS2」と一緒に歩んできたという印象が強いですね。時期的に「PS2」の発売は『GT2』の3ヶ月後なんですけど、『GT3』は『GT2』と並行して開発していましたから。あと、『GT3』発売のときにヨーロッパに行ったことがあって、シャンゼリゼ通りにある大きなヴァージンメガストアの店内のディスプレイが全部『GT3』だったことも強烈に印象に残ってますね。店内もパッケージの赤で真っ赤になっていて、ものすごく感動した。“こんなことがあっていいのか!?”って(笑)。
目指すは“自動車産業になくてはならない存在”
——初代「プレイステーション」から「PS2」までの『GT』は、シミュレーション精度の向上と規模の拡大という進化が中心でしたが、それが「PS3」の『GT5P』ではオンラインによって大きく様変わりしようとしています。
そうですね。『GT5P』は、単純にこれまでの『GT』のクオリティアップ版ではなくて、オンラインにつながることで何ができるのかが大きなテーマなんです。同時にそれはゲームの未来でもありテレビの未来でもあり、「プレイステーション」の未来でもある。だからこそ、それを形として見せたいんですよね。
——オンラインによってゲームがどう変わるのか——?
そう。だからレースだけじゃなくて、「グランツーリスモTV」で番組配信もやるし、オンラインでニュースも流すし、メニューまわりのユーザーインタフェース(操作方法)も従来のゲームの様式とは違ったものにしている。じつは『GT』のオンラインの構想自体は'01年くらいにはだいたい固まっていたんですよ。
ただ、それを実現するにはハードの進化、ソフトウェア技術の成熟、インフラの充実が必須だった。しかも、そういう時代がすぐに来るだろうと思っていたらなかなか来なくて(笑)、今やっとその構想を『GT5P』でひとつひとつ実現しているという段階ですね。
——オンラインによって『GT5P』も進化しています。今後に期待しているユーザー、「グランツーリスモ・ドットコム」の読者に向けて何かメッセージをいただけますか。
『GT5P』は今後あと何回かのアップデートを予定していて、「グランツーリスモTV」の本格配信やオンラインコミュニティの構築などを実現したいと思っています。そこでまた大きくゲームが変わってくるでしょうから、今後も注意深く見守っていてほしいなと思います。あと、繰り返しになりますけど、『GT』自体がゲームの新しい姿、あるいはテレビの未来の姿を模索しているということも意識していてほしいですね。
——最後に、今後『GT』が目指すところ、目標は?
“最善なモノづくり”を今後も続けていきたい、ということがひとつ。あとは、今回はじめて日産GT-Rというかたちで自分たちが持つ技術なり感性が本物のクルマにフィードバックされましたよね。そういう技術交流というか、自動車業界への貢献は今後も続けていきたいと思っています。だから、『GT』シリーズが目指すものという意味で言うと、“自動車産業になくてはならない存在になること”かな。
(2008年06月26日収録)
History of GRAN TURISMO
1997年12月23日発売(日本)
グランツーリスモ
テーマは“リアルドライビング”。レースゲームの歴史を変えた一作
実車をリアルにドライブできるという、かつてないコンセプトで誕生したシリーズ第一作目。実車がゲームに登場するという文化がまだない時代に、100車種146グレードの収録は誰もが驚嘆した。
山内は当時を振り返り「寝る間も惜しんで4年間かけてつくりました。当初は、届く人に届けばいいと思っていたんですけど、発売日が近づくにつれ、これが受け入れられるのだろうかと内心ドキドキでしたよ」と語る。
1999年12月11日発売(日本)
グランツーリスモ 2
CD-ROM2枚組。初代プレイステーションの限界に挑んだシリーズ二作目
500車種600グレードを超える収録車種、ダートを含む29種類ものコースなど、ゲームボリュームが大きく飛躍した『2』。なかでも海外車種は大幅に拡充され、当時のホットモデルはもちろん、ヒストリックカーの類まで収録していた。
「『GT1』がグローバルに成功したおかげで、このときようやく海外メーカーとコンタクトをとれるようになったんです。そもそも『1』の100車種146グレードという数には満足していなくて、本当はこのくらい入れたかったんですよね(山内)」。
2001年4月28日発売(日本)
グランツーリスモ 3
規模よりも品質。60FPSで動いた最初の『グランツーリスモ』
プラットフォームが「PS2」になり、山内が最もこだわっていた60FPSを実現した『3』。規模という意味では『GT2』に及ばないものの、あらゆる品質が大きく向上。とりわけシリーズの要でもあるドライビングフィールは、ステアリングコントローラーGT FORCEへの完全対応もあり、プロドライバーを唸らせるほどにまで成長した。
山内も「ダートは『2』から入った要素ですが、『3』でやっとまともな操作性になった」と評価する。
2002年1月1日発売(日本)
グランツーリスモ コンセプト2001 TOKYO
“コンセプトカーを走らせたい”そんなモーターファンの夢、叶う
“ショーのステージでしか出会えないコンセプトカーをドライブする”をキャッチコピーに、第35回東京モーターショー2001で発表されたコンセプトカーを中心に収録した特別バージョン。
「じつはポリフォニーとGT-Rの関係はここからスタートしたんです(山内)」というように、オープニングにはGT-Rコンセプトが意味ありげに登場する。
2003年12月4日発売(日本)
グランツーリスモ 4 “プロローグ”版
“エデュケーション”をテーマにしたビギナー向けタイトル
山内がかねてから懸念していた“初心者への救済策”を具現化したタイトル。『GT4』への入門編という位置づけで、ボードゲーム感覚で楽しみながらスポーツドライビングのイロハが学べるエデュケーショナルソフトになっている。
収録される車種やコース数こそ少ないものの、ゲームとしてのボリュームは十分にあり、また、見えない部分ながらも挙動シミュレーションエンジンがVer2.0へとバージョンアップされたことに加え、ステアリングコントローラーではじめてロック・トゥ・ロック2.5回転(900度)の回転角を実現したGT FORCE Proも発売されるなど、ドライビングシミュレーターとして大きな進化を遂げた。
2004年12月28日発売(日本)
グランツーリスモ 4
人、クルマ、景観、すべてが揃ったシリーズ集大成
人、クルマ、そして景観の3要素の表現にこだわり、「PS2」の限界に挑戦した『4』。規模はシリーズ最大を誇り、700車種以上ものクルマ、50種以上のコース、100種以上のレースを収録している。同時に、新たなフィーチャーも数多く導入。なかでも、プレイヤーがAIに指示を出してレースをする「B-specモード」、自由なアングルでクルマの写真撮影が楽しめる「フォトモード」の収録は大きな反響を呼んだ。
もちろん、シリーズの真骨頂であるドライビングフィールもブラッシュアップ。進化したシミュレーションエンジンと相まって、ラップタイムの精度は実際のタイムの±5%という次元にまで到達した。山内も「あの頃は実車のラップタイムにいかに近づけられるかをずっとやってましたね」と当時を語る。
2007年12月13日発売(日本)
グランツーリスモ5プロローグ
オンライン対応を武器に、レースゲームの新たなスタンダードを目指す
プラットフォームが「PS3」になり、ビジュアル、サウンド、ドライビングフィール、すべての品質がさらに向上。最大の特徴はオンラインに完全対応したことで、最大16人でのレースはもちろん、「グランツーリスモTV」によるクルマ関連の番組配信や各種ニュース配信など、『GT』らしいフィーチャーを多数導入している。また、オンライン無料アップデートによって機能や要素が追加されるなど、ゲームそのものが進化していく点も本作ならでは。『GT5P』は、このオンラインとの融合によって、再びレースゲームのスタンダードを目指す。
(※1)モータートゥーン・グランプリ
'94年12月16日発売。イラストレーター松下進氏デザインによるファンタジックなカートゥーン調のレースゲーム。山内一典がプレイステーションで最初に手がけたタイトルで、『GT』シリーズの要でもある物理シミュレーションエンジンの基盤は、既にこのとき築かれていた。
(※2)環境マッピング
ボディに周囲の景色が映りこませることで艶やかな質感を表現する技術。『GT1』が登場するまではゲームでそれを表現したものはなく、後のゲーム業界に大きな影響を与えた。
(※3)FPS
Frames Per Secondの略で、1秒間に何コマ動かしているかを示す。数字が多いほど滑らかに見える。
(※4)GT HiFi
『GT1』において、特定の条件を満たすと出現するボーナスモード。タイムアタックのみながら、60FPSでのドライビングが楽しめた(本編は30FPS)。
| この特集の表紙 | Vol.02 放送とパッケージメディアの隙間を埋める存在へ。 | |








































